昔の人です。夏目漱石とほぼ同じ歳。しかし、50歳で亡くなった漱石より長生きされています。その生活流儀。今でいうライフハック本でしょうか。2014年にも通じる考え方、スタイル、方法がたくさんあって機能する本です。
日常こそ、平凡こそ、実はわれわれに最も大切な人生のすべてなのだ、という原則。
奇を衒うことのない書き方が、40歳も近くなると染みます。思い通りにならない人生をそのまま受け入れて、避けず、おそれず努力して自分を適応させていく、というまっとうな生き方をすすめています。努力というのがポイント。苦しいところでも努力することでそこに楽を発見する。そしてユーモアで面白くする。敗戦後の新日本建設劇を楽しむ気概が感じられます。
人間以外の動物は、いくつになっても隠居なんてせずに死ぬまで働き通すというのは、確かにそうだと思いました。死ぬまで倒れるまで働き続ければいいんです。休むのは、死んでからいくらでもできますよね。そのためには、健康が大事。食べ物はゆっくり噛みしめること。お酒を飲むこと、食べ物を食べること、性欲の三欲を八分目に抑えること。性欲を八分目に抑えるというのが具体的にどういうことなのかは書かれていないようでした。
福沢諭吉の言葉を引いて、若い時は老人に接して、年老いては若者に接したらいい、という人生訓。
人間観も広大です。人間は宇宙の働き、機能の一部であって、時間的、空間的表現に過ぎない、という考え方はアンチヒューマニズムのようで、なかなか気持ちが楽になる考え方だと思います。だいたい革命を志して残虐な行為を行うのは、ヒューマニズムを信奉する思想家の方だと私は考えています。さて、人間は宇宙の機能の一部であるからには、その機能を十分に働かせる努力が最も大切ということになります。
買い物は現金主義。生活の単純化は居住の単純化から始めよ。かなりの富豪だったのに、住居はできるだけ小さい方がよく、便利に工夫するに限るという主張をしています。女中なども使わずに済む家を志向しているなど、先進的だったようです。自宅に庭などは不要で、風景美のようなものは公園に求めたらいい、土地があれば樹木は果樹にして、自家菜園にしてしまいます。徹底的に実用主義な家造り。
心から遠慮、痩せ我慢、負け惜しみ、虚偽、きまりが悪い、億劫などを一切追放して、子どものように無邪気になればいい。プライドとか不要。これは最近、仕事していて気づいたのですが、仕事においては自分のプライドや感情なんてどうでもいいんですよね、徹底して相手側に寄り添うことが仕事の基本、原則だと。そうすれば自分の心を病むことも無い気がします。仕事をしながら、自己にこだわるから、ストレスを感じる。
常に手帳を携帯してすべてを片っ端から書き込んでいるなどは、手帳術ブームの現代においても通用する習慣ですよね。アイデアは小鳥のようなもので頭の中に飛んできたときにさっと捉えて籠の中にいれておかないと飛び去ってはもはや自分のものにすることは難しいと言っています。
歩きながら考える習慣。夜の散歩。子どもの頃からの徒歩主義は健康法でもある。一日2時間以上歩くという。昼間歩き足りない時は夕食後散歩に出かけた。歩くとよく眠れる、というのは、理に適っているようです。セロトニンの関係。睡眠も、眠くなるまでは眠らない。眠くなるまで働いてやり尽くして横になる。そうすれば雑念もなく床に入るとぐっすり眠ることができると。たまに眠れない夜があると、枕元の手帳をとって思い浮かぶことをあれこれと書きつける。いつしか本当に眠くなってくるからそれで眠る。眠れなかったら、それだけ儲けたつもりで勉強をがんばればいい。どこまで思考がカラッとしていて気持ちのよいおじいさんです。
旅行の流儀もライフハックっぽい。できるだけ身軽に出かけること。健康に注意を怠らぬこと。その代わり現金は十分に用意する。というのは、ライフハッカーの記事で読んだことのような気がします。
二流、三流の実業家はいくらいても苦にならないが、学者の二流、三流ばかりは始末が悪い、というのは痛快なアカデミズム批判になっていて笑えます。
以上が、敗戦直後の日本の80歳を過ぎた老人の流儀だから、本当に驚きます。折に触れて読み返して、心を正したい本です。
- 作者: 本多静六
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2013/12/20
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