『リスボン大地震』を読んで色々と考えたよ~独裁者カルヴァーリョによる首都直下型地震からの復興

能登半島地震があったからニコラス・シュラディ『リスボン地震』を読んだのは間違いない。
遠方の首都直下型地震の歴史から学ぶことがありそうな気がした。
思いついたことは、Twitterにツイートした。
それを振り返りながら下記を書く。

リスボン地震

リスボン地震は、1755年11月1日9時45分頃に発生した地震
首都直下型地震といっていいだろう。
被害状況もよくわかっていない。
リスボン地震の揺れによる建物倒壊、その後の火災、そして津波によって壊滅した。
ポルトガルをトップグループから追い落とした災害。
その後、ポルトガルは先進国になれていない。

進撃の巨人』を思い起こす地震の描写

地震の描写は、『進撃の巨人』で巨人が侵入した時の状況、女型の巨人が都市で発生した時の状況を思い起こさせた。
ミサの最中に崩れ落ちる教会。
巻き込まれる信者。
なぜか生き残る重要人物。
リスボンでも王室の人々は生き残った。

リスボンで行ってみたい施設

news.yahoo.co.jp
↑この記事で紹介されているQuake リスボン地震センターに行ってみたいと思った。
Googleマップでピンを付けておいた。

乱世の能臣=セバスティアン・デ・カルヴァーリョ

三国志』の曹操を評した「治世の能臣、乱世の奸雄」という言葉がある。
リスボン地震直後、茫然自失となり何もできなかったポルトガル国王ジョゼ1世に対して、具体的なNextActionを示すことで信頼を獲得し、全権を任されたセバスティアン・デ・カルヴァーリョは「乱世の能臣」だったのだろう。
災害のような状況においては、能力を発揮できる人とそうでない人が明確になる。
今、霞が関においても、使える人と使えない人がはっきりしていることだろう。
カルヴァーリョは、映画『シン・ゴジラ』の矢口蘭堂にも接続する。
映画化したらいいのではないかと思う。
おそらくポルトガルでは大河ドラマ化されているんじゃないか。
ポルトガル大河ドラマが存在するかどうかは知らんけど。
カルヴァーリョには、ローエングラム候ラインハルトや曹操のような魅力もある。
邪魔な貴族勢力を一掃する場面はオーベルシュタインが絡んでいるように見えた。

無能だが正しい判断=ジョゼ1世

一方、震災に対してほとんど何もできなかったジョゼ1世だが、自分の能力を自覚してかどうかは不明だが、早々にカルヴァーリョに全権委任した判断は正解だった。
無能が動き回るより、良き。
リスボン地震』では、偶然、リスボンの王宮を離れていて王室が無事だったこと、国王が無事だったことは、王国にとって幸運だったと記述があった。
日本で言えば、天皇のような存在として、存在価値があるのだろう。
東京で首都直下型地震が発生した場合を考えると、天皇が無事かどうかは大きなポイントになる。
ふと『呪術廻戦』での天皇のポジションってどんなんだろう?
渋谷事変後、皇居及び天皇家はどうなったんだろう?
少年漫画として、政治的にセンシティブになりそうだから触れていないかな?

即刻絞首刑

リスボン地震直後、治安回復が急務だった。
カルヴァーリョは、被災地における犯罪者を速攻で絞首刑にしたらしい。
80人ほどと記載あり。
それを見せしめにすることで治安を回復した。
曹操のようなやり方。
もし当時のリスボンに読売新聞があったら、自販機を壊した人たちは冤罪で絞首刑にされてされていたかもしれない。
マスメディアは恐ろしい。
2024年1月18日現在、読売新聞は謝罪していないようだ。

Twitterに苛立つカルヴァーリョ

どうしてもXと書く気になれないTwitterに苛立つカルヴァーリョが想像できる。
カルヴァーリョは「狂信的な聖職者たちによる執拗な〝黙示録の災厄〟の説教」に強い懸念を抱き、苛立っていた。
Twitterだけではなく、能登半島地震においてもマスメディアも失敗している。
読売新聞は、被災地自販機窃盗団記事を黙った削除して、検証も謝罪もしていない。
そんな姿勢で信用できるだろうか?

ここ(ジャーナリスト・画家のミゲル・ティベリオ・ペデガシェによる記述)には一片の先入観も観念論もない。神の怒りや神の裁き、神慮、罪といった禍々しい言葉はいっさいなく、著者になしうるベストの形で、起こった事象を説明する事実が淡々と書かれているだけだ。言うまでもなく、こうしたレポートこそ、カルヴァーリョが必要としていたものだった。ヨーロッパの人々の意識から、〝狂信的な聖書の釈義に浸りきった迷妄のカトリックポルトガル〟というイメージを払拭するためにも、何としてでも合理的な啓蒙精神に基づいた報告がなされなければならなかった。しかし、事態はカルヴァーリョが願ったようには進まなかった。それどころか、この災厄は、十八世紀版マスメディアの狂乱に火をつけ、時間の進行とともに、基本的に事実だけを伝えていた初期レポートのトーンは消え失せて、センセーショナルな記事ばかりが溢れ返る状況になってしまった。p142

石原慎太郎「天罰」発言全文

ふと思い出して石原慎太郎の「天罰」発言全文を探したら、はてなブログで記事にしてくれている人がいた。
ありがたい。
black-mant.hatenadiary.org
これを読むと、

『1755年11月1日の巨大地震によって引き起こされた不幸な運命からポルトガル王国が得ることのできる様々な利点に関する、ひとつの政治的見解』で、カルヴァーリョは、災害は国家を利するものに転換できるだけでなく、事実、国家にとって必要不可欠なものでもあるという見解を述べている。p136

こういうカルヴァーリョの思考と似たものを感じた。
国家として、東日本大震災を契機として変化する必要がある、という問題意識だったのだろう。
「天罰」という言葉の選択は、石原慎太郎に特徴的だった脇の甘さかもしれない。
それにマスメディアの質の低さ。
自分たちが主張したいことに沿った形で発言を切り取って記事にしてしまう。
スピノザ的な「神」は意志ではないので「天罰」は存在しない。
「天罰」ではなく、解決すべき問題。
それを東日本大震災は数多く残したが、曖昧なまま13年経過しようとしている気がする。
それは民主的な現代国家においては、カルヴァーリョが存在しえないからであろう。

世界で初めての国際的な支援

リスボン地震に対して、英国やスペインはそれぞれの事情から支援を行った。
他国の災害に対して国際的な支援が実施されたのはリスボン地震が初めてらしい(要確認)。
一方、フランスやネーデルラントは支援しなかった。
それどころか、ヴェルサイユ宮殿では、一種のエンターテインメントとしてリスボン地震を楽しんでいたらしい。
流石、フランス王室は違う。
ちなみにふと調べてみたら、マリーアントワネットはリスボン地震の翌日、11月2日に生まれていた。
まあ、関係ないけどね。
ソフィア・コッポラの映画はおもしろかった。
また見てみると当時のヨーロッパの雰囲気はわかるかもしれない。
あのヴェルサイユ宮殿なら、他国の悲劇はエンターテインメントとして消費するのもわかる気がする。

アグアス・リヴレス水道橋の幸運

リスボン地震では、7年前1748年に運用が始まったアグアス・リヴレス水道橋がなぜか激震にされた耐え、結果、新鮮な水が確保できたという幸運があった。
水の確保、王室の無事、カルヴァーリョの存在、ジョゼ1世によるカルヴァーリョへの全権委任など、リスボン地震ではいくつかの幸運があった。

ユダヤ人の迫害

ポルトガルの歴史についても触れられているが、そこでわかるのは、ユダヤ人を迫害してきたのはキリスト教徒なんだよなあ。
それがイスラエル建国によって、ユダヤ人とムスリムの対立に置き換えられた。
英国イギリスが意図的にやったとしたら、恐ろしい。

日本におけるポルトガル

種子島に鉄砲を持ってきたのはポルトガルだった。
フランシスコ・ザビエルを派遣したのはポルトガルジョアン3世。
しかし、その後、ポルトガルの影は薄い。
それが何となくわかった。
ポルトガルは「選択と集中」でアジアの権益を手放して、ブラジルに集中していた。
おそらくそれが背景ではないか(要確認)。

復興を邪魔したのは聖職者

マラグリダのような聖職者が、カルヴァーリョによるリスボン復興を妨げていた。
キリスト教って何なんだろうね。
進撃の巨人』のウォール教にしろ、『銀河英雄伝説』の地球教にしろ。
宗教って世界に対してメリットとデメリット、どっちが大きいだろう。

イエズス会と組織の力学

組織は一旦設立すると独自の力学と本能で組織自体の拡大に向かう。
イエズス会は当初の「崇高な」目的を離れ、宣教師たちはその目的のためにと言い訳するだろうが、莫大な資産を世界中に貯め込んでいた。
そのイエズス会をローエングラム候ラインハルトのような手法で一掃したカルヴァーリョ
啓蒙専制君主として、しかし、カルヴァーリョは簒奪はしなかった。
貴族勢力やイエズス会の一掃。
現代の日本のような民主主義国家で、こういった革命は起こりにくい。

トップが交代した時の反動

カルヴァーリョの絶対的権力の根拠となっていたジョゼ1世が死去すると、カルヴァーリョは失脚する。
王位を継いだマリア1世は、反動的な愚昧なリーダーだった。
組織のトップが交代するとこうした反動が起こりがち。
自分もその時に備えて、色々と準備しておかないといけないと思った。

傑作

見事なノンフィクション。
エンターテインメントとしてもおもしろかった。
それがすばらしいノンフィクションの条件でもある。
カルヴァーリョは、ローエングラム候ラインハルトや曹操に匹敵するほどの魅力を備えている。
きりがないので、この辺りで投稿しておく。
リスボンは行ってみたい都市の一つとなった。
Googleマップにピンを立てた。