勝手に始めろ、ドン・キホーテのように~『リーダーシップの旅』という情熱大陸

もう何年も前になるが、鹿児島で様々な地域貢献活動をされている永山由高さんが「Tendoku」という読書会ですすめていた本が野田智義+金井壽宏『リーダーシップの旅』だ。なんとなく機会を逃して未読だったが、ようやく読んだ。
ここ数年、Tendoku にも参加しなくなった。
しかし、永山さんの活躍は色々な媒体で目にしている。
ウェブで見かけた記事でも、やはり『リーダーシップの旅』をすすめていた。つまり、本気なのだ。

初めの方に、リーダーシップは「見えないもの」を見る旅、そしてその旅はたった一人で始まる、とあった。そこを読んで、ミゲル・デ・ウナムーノの「ドン・キホーテ」というエッセイを思い出した。そのエッセイは今、手元に無い。
たった一人で、ドン・キホーテのように歩き出せ。夜空に見上げた星を別の誰かが見ていることを信じて。そういったエッセイだった気がする。つまり、何かやる時は、一人で始めろ、ということだったのではないか。フォロワーは後から来る。勝手に始めろ。
それを踏まえたような矢作俊彦さんの『スズキさんの休息と遍歴』という小説がある。この小説は、冒頭にウナムーノの引用がある。そして、主人公のスズキさんはドン・キホーテのように一人で戦うのである。

リーダーシップの旅は、「リード・ザ・セルフ」から始まる。それは情熱でなくても焦燥感でもいい。『八重の桜』の「やむにやまれぬ心」を思い出した。そして、『進撃の巨人』のエレン・イェーガー。壁の外の「見えないもの」を見ようとして、一人、あがくエレン。周囲の人間はそんなエレンの情熱に巻き込まれてフォロワーとなっていく。まさしく本書でのリーダーシップをエレンが発揮している。
また、今年2018年の大河ドラマ『西郷どん』の西郷隆盛も、おそらく「やむにやまれぬ心」で一人動いて、結果としてリーダーとなっていく物語として描かれるであろう。西郷は、リーダーシップのことなど、死ぬまで考慮したことは無かったはずだ。ドン・キホーテだって、リーダーになろうなど露ほど思っていないはずだ。
「旅はたった一人で始まる。」209

今、日曜日にも仕事があって、そいで酔っ払って『西郷どん』見て書いているから、どうしてんそちらに引っ張られる。キャラクターが類型的なのが、ちょっと気になった。大久保とか調所とか。よくあるフレームに収まっていて、おもしろくない。どっちかが悪とか、色分けできん。渡辺謙の斉彬には複雑さを感じるが、どうだろうか。
そう、リーダーシップには暗黒面があるという話。自分は、ダースヴェーダーではなく、銀河帝国皇帝パルパティーンが気になっている。パルパティーンの功績って、色々あるんじゃないかと思ったりする。調所広郷の功績も、薩摩藩にとっては大きい。 また、斉彬にもダークサイドがある。

本書の一文「行動なら学べる。」369 には勇気づけられる。生まれ持ったカリスマ性とか要らない。学んで、自分が正しいと思う行動をすればいいのだ。
有名なローザ・ルイーズ・パークスとか、色んな本で取り上げられるが、その行動をとった気持ちが本当によくわかる。なんでかよくわからんけど、その日その時はどうしても席を譲りたくなかったのだ。黒人解放運動とか、黒人の権利とか、そんなことどうでも良かったんだと思う。別に疲れてもいなかった。でも、その日はどうしても席を譲りたくなかった。一時の気の迷いかもしれない。しかし、意外とそんな行動から始まるんだろう。

リード・ザ・セルフの原動力となるのは、何でもいい、という話は新鮮だった。情熱、夢など、前向きのエネルギーだけじゃなくてもいいのだ。焦燥感だって、嫉み、嫉妬だって、ルサンチマンだって、原動力となり得るのだろう。エネルギーに、ポジティブもネガティブもない。どんな力であれ、利用すればいい。これは他から与えられるモチベーションではない。内側からわき出る内発的なエネルギーだろう。夏目漱石も思い出す。

内なる声(inner voice)を聞いても、今のところ、旅に出たいとは思わない。でも、ある日突然、何か聞こえてくるかもしれないから、その日に向けて、今できることは、色々考えて、準備しておくことだろう。
一つ、インナーボイス(リトル・ホンダみたいな?)を明確にするためには、トレードオフの意識が必要だと感じている。自分にとって、本当に大事なものとそうでないものを区別する。そして、大事じゃないものを捨てることも必要だ。この辺りは、エッセンシャル思考にも通じる。ギリギリの決断を日々、繰り返すこと。

自分のように40代の中年(「人生の正午」)になってくると、それまでの「信用蓄積」やキャリアがあるだろう。しかし、それが捨てられなくなる。リーダーシップの旅への一歩を踏み出せなくなると本書で書かれている。なるほど。本当は、信用蓄積があるからこそ、それをけちらずに使って、一歩踏み出すべきなのだ。

アクティブ・ノンアクション=「不毛な多忙」の罠に注意。たとえば今、自分はこの文章を病院の待合室で書いている。時間がたっぷりある、こういう時間は日常の多忙から離れて、内省するのにぴったりな時間かもしれない。また、仕事のある平日でも、一日5分でも内省する時間を作った方が良さそうだ。Deep thinking しかし、何もツールが無く内省するのは難しい。こうやって言葉にしたり、読書しながら考える方がいいかもしれない。

本書も、折に触れて読み返すことになるだろうと思う。

リーダーシップの旅  見えないものを見る (光文社新書)

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