『人類の未来 AI、経済、民主主義』を読んだ。ノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソンへのインタビューをまとめたもの。
ノーム・チョムスキー
私が、個人的に気になっているのは、尊敬できる人格者であり、友人としてもたぶんすばらしい人物であるオバマより、下品で粗野で友達になりたくないと思わせるトランプ大統領の世界の方が、いい方向に進んでいる気がするのはなぜかということである。
本書を読むと、未来予測は本当に難しく、アメリカの大統領がどんな人物だろうと不確実性は無くならないということがわかる。
チョムスキーの発言を見ると、たぶんトランプが嫌いなんだろうとわかる。そして「彼は神経の細い誇大妄想狂です。」426 と断言していて、大丈夫だろうかと思う。これが「世界一の知識人」だろうか?年齢を重ねすぎて知力が弱っているんじゃないかと心配する。チョムスキーは、マティス国防長官も、戦争したがっている馬鹿だと思っているようで、全般的にトランプ政権に対する見方がフェアじゃない。偏向が見られる。その点は割り引いて読んだ方がいいと感じた。
レイ・カーツワイル
悲観的なチョムスキーから、カーツワイルの章になると雰囲気は一転する。楽観的なカーツワイルの様々な断言はおもしろい。
「ポスト・ヒューマン」という概念は、『機動戦士ガンダム』の「ニュータイプ」を思い起こさせる。
テクノロジーについては、もちろんネガティブな面もあるが、トータルではポジティブな面が上回っていると言うカーツワイルに賛成する。座間の連続殺人があったからって、Twitter を規制するなどという反応は心底あほらしい。とにかく何かやらないといけない、という官僚的思考の現れだろう。効果などどうでもいい。スケープゴートが必要なのだ。対策しましたというポーズが官僚や政治家には必要なのだ。くだらない。
カーツワイルは、原子力発電所は攻撃に弱い中央集中型と分類する。その点で、原発にリスクがあるのはわかる。一方、太陽光発電、ソーラーパワーは分散型で攻撃に強い。インターネットも分散型だ。
マーティン・ウルフ
そして、「いかに嫌いでも、アメリカは必要です。」1694 というウルフは現実主義的である。
われわれの経済に対して無政府主義的なイルージョン(イリュージョン?)を抱く人たちがいますが、そういう人たちはたいてい強い国に住んでいて、その恩恵に浴しているということを自覚していない。
これって、反安倍の人たちのことを言っているようだ。退職金をたくさんもらった定年後大学教授が雪崩をうって反安倍になっている気がする。安全なポジションからの批判のようにどうしても見えてしまう。信用できない。
ウルフの「われわれは本質のところでとても社会的な動物です。」2333 という言葉は、上↑の「共感する力」に接続する。稲盛和夫さんなどが使う「利他」が人生の意味に関わってくるというのは、最近、自分でも感じている。自分の幸せを考えるほど、他人のために何かすることが重要になってくる、という逆説がある。それは人類にプログラミングされたコードなのではないだろうか。
ビャルケ・インゲルス
様々な制約の中で「身をよじりながら一つひとつ丁寧に答えを出しつつ」2408 仕事をするインゲルスの姿勢に共感した。マッチョだ。
別の箇所では、反体制などの姿勢に対して「「過激にインクルーシブ」にすることで、革新や発見の確率を格段に上げようというのが私の態度」2542 と言っている。「複数の、しかも対立するような要求に対しても何とかしてすべて「イエス」と答えようということ」2542 から、イノベーションが生まれる、というのは自分の今のポジションでもできる姿勢だと思った。安易に妥協しない。徹底的に考える。すべての関係者を納得させるような解決方法を発明する。
フリーマン・ダイソン
ダイソンは、気候変動問題が狂信的かつ政治的になってしまっている、と批判する。それに自分も共感する。地球温暖化で食べている人たちの発言は、たとえ科学者といえど、時に信用できない。バイアスを感じることがある。全否定ではなく、他にも問題がある、ということだ。そして、気候変動問題以上にリソースを費やすべき問題がある。
私たちは、事実を確かめるよりも、物語を信じる傾向にあります。これが人間の本質です。2817
逆に言えば、人を動かすには、物語の力を利用すればいい。物語を事実、エビデンスによって批判するのがサイエンスであれば、気候変動問題はサイエンスというより物語、宗教に近づいているような気もする。
人間が、非常に社交的な動物である、という指摘も、共感の問題、アダム・スミス『道徳感情論』などに接続する。また、利他であることが、逆説的に自分の幸せにつながるという意味の言葉も納得できる。
複数の人が同じようなことを言っているのは、より真理に近い気がする。
政治に関して、オバマ大統領は本気なら、ブッシュ(父)のように勝手に核兵器を廃棄すべきだった、と批判。オバマは、ノーベル平和賞をもらったり、口や思考では平和主義者のようだが、結局、実行できなかった。そういうイメージがある。一方、トランプの時代の方がましだった、という結果だってあり得ると思う。これからだろうけどね。
原子力発電についても、反対派が言うほど悪いものではないし、推進派が言うほど良いものでもない、というフラットな立場をとっている。
石炭は、原子力よりずっと多くの人々を殺すと主張。
インターネットが、全体が創発的にスーパー・オーガニズムに育つ可能性について言及している。自分は、その内、インターネットが「心」を持ってもおかしくないと思っている。最近、NHK でスペシャル番組「人体」でとりあげているような情報のネットワークとしての人体が心を持ったように。
「アラブの春」や「ウォール街占拠」がいずれも社会変革につながらず「失敗」したのは「既成体制を倒した後のビジョンないし物語が、しっかりと構築されていなかったからかもしれない」3257 と。今の日本の野党が、あるいは左翼勢力が、いくら声高に反安倍政権を主張し、デモを行っても、国民的支持を得られず、政権交代ができない理由も同じではないか。アベノミクスにしても、その後のビジョンがまったく欠けていては、投票する気にもならない。
個人的なまとめ
インタビューをまとめたものであり、どの発言者もおもしろく、刺激的だった。自分なりに引っかかったところを、著書などを読むことで深めていけばいいだろう。
全体として、未来は明るくも暗くもないんだろうと感じた。未来に対しては「中庸」の姿勢で臨めばいいのだろうと思う。
人類の未来―AI、経済、民主主義 (NHK出版新書 513)
- 作者: ノーム・チョムスキー,レイ・カーツワイル,マーティン・ウルフ,ビャルケ・インゲルス,フリーマン・ダイソン,吉成真由美
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/04/11
- メディア: 新書
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