夏目漱石『草枕』から広がる世界

山口直樹『図説|漢詩の世界』を読みました。
写真と漢詩の組み合わせを見ていると江守徹さんの朗読が聞こえてきそうです。

草枕

そうすると覚えのある漢詩のフレーズがいくつも出てきます。

采菊東籬下
悠然見南山
from「飲酒」陶淵明

空山不見人
from「鹿柴」王維

温泉水滑洗凝脂
from「長恨歌白居易

これらは本書に載っていてかつ『草枕』に引用されているフレーズです。

草枕』はまた西洋詩の引用もあります。
たとえばシェリーの「雲雀に寄す」という詩

We look before and after,
And pine for what is not:
Our sincerest laughter
With some pain is fraught;
Our sweetest songs are those that tell of saddest thought.
from "To a Skylark -Percy" Bysshe Shelley

西洋画についての言及もあります。特にミレイのオフィーリアは重要なモチーフです。そして、このミレイJohn Everett Millaisは「落ち穂拾い」のミレーJean-François Milletとは別人です。ここから「ラファエル前派」に興味を広げてもいいでしょう。
また、『草枕』は有名なピアニスト、グレン・グールドが晩年に愛読したことも知られています。私は、英訳ペーパーバック版も持っています。たとえば次のような本もあります↓

「草枕」変奏曲―夏目漱石とグレン・グールド

「草枕」変奏曲―夏目漱石とグレン・グールド

『三四郎』などの新聞連載として書かれた小説に比べると『草枕』は、小説の外への広がりが大きくなっています。
古典や教養への入口として『草枕』は有用です。
漱石を読む、となるとついつい『こころ』や『坊ちゃん』などを選んでしまいがちですが、手っ取り早く教養を身につけるのに『草枕』はおすすめです。
私にとっては精神衛生の書ですけど。
図説 漢詩の世界 (ふくろうの本/世界の文化)

図説 漢詩の世界 (ふくろうの本/世界の文化)