ベーシックインカムと感情、性および雇用について

Guaranteed Basic Income

ベーシック・インカムとは、国民一人当たり、無条件に定額の収入 income を与える政策である*1

感情問題

人間の感情を考慮しない政策は失敗する。そう考えている。ベーシック・インカム(以下、BI)も、感情をシステムに組み込むことができるかどうか。
BI については、その概要を聞いただけで、感情的な不快感を示す人が多い。Twitter での BI 批判はほとんど感情論だ。
典型的なのが、BI の世界になるとみんな働かなくなる、という批判で、いい加減うんざりしている。実験、研究結果からも、BI が導入されたからといって、人が働かなくなるかというとそうはならないことを示している。人は働く生き物なのだ。
本来、労働は他者に貢献することで、快楽を得ることができる行為なのだが、近代の労働システムがそれを歪めてしまった。労働は楽園から追放されてしまったのだ。BI はその幸福な労働を取り戻す可能性を秘めている。もちろん元の楽園には戻れないが、新しい労働観を作ることができるだろう。そう期待している。
大多数の否定的な感情を変えるには、長い時間をかけて、地道に説明して理解してもらう必要がある。自分のツイートやこうしたブログ記事がそれに少しでも貢献できればいいと思っている。エビデンスに基づいた文章じゃないかもしれない。しかし、直感的に BI は正しいと感じている。もちろん、間違った、と思った時には、オープンに訂正するだろう。これは、当初、わくわくするようなアイデアと試みだったのに、結果、無残な失敗に終わった NAM のことを考えている。NAM は、人間が組織化した時の感情をうまく処理できなかったように外野から見えた。だから、BI では人間の感情、嫉妬などをシステムに反映させる必要があると思っている。特に日本社会は、自分より下だと思っている誰かが得をしているように見えるのが許せないメンタリティだから、その要素を考慮する必要があるだろう。
ブレグマンの本も翻訳されたらしいから、いよいよ盛り上がってきた。超高齢化社会の日本こそ、BI が必要だと思うけれど、一方で生活保護やシングルマザーの問題を眺めていると、感情的な反発が激しいのも日本のような気がする。

問題

BI が導入されれば、一夫一婦制も必ずしも必要じゃ無くなる。女系の家庭を中心にすればいい。もちろん、女性が産まない選択だって自由だ。男は家庭から解放される。もちろん、家庭に入ってもいい。要するに男女とも自由になるのだ。しかし、ちきりんさんが以前書いていたが、BI の世界は、オドロオドロシイものになるだろう↓ たとえば、一夫一婦制が必要じゃなくなれば、できない男子は増加するだろう。女性は妥協しなくなる。さて、その時に、男子はどうするか? BI ではそういった性の問題も発生してくる。そして、政策を作る官僚は、性の問題を扱うのが下手くそだ。
d.hatena.ne.jp

雇用問題

BI は雇用の形態を変える可能性を秘めている。現在のようなフルタイム正社員という形態は止めればいい。個々の労働者がすべて個人として労働契約を個別に企業と締結するスタイルがいい。それも、BI による自由。正社員がいい、という常識が変わる。かといって、パートタイマーでもない。BI が支えになることで、初めて労働者は雇用主と対等に労働条件を交渉できるようになるのだ。
ここで参考になりそうなのが、ロバートソン『未来の仕事』。ここで<自身の仕事>own work という概念が提示されている。30年以上も前の本だが、未だに機能する。そして、30年経っても、この本に描かれた未来が実現していないことに暗澹たる気持ちにさせられる。ちなみに『未来の仕事』は現在、翻訳が出版されていないようで、Amazon で14,000円超えになっている。ブレグマン本も翻訳され、BI が盛り上がりそうなタイミングなので、勁草書房さんに新訳でもいいからお願いしたいところである。自分は図書館で借りて読んでいる。ちょっと長いが、冒頭の<自身の仕事>についての箇所を引用する↓

 <自身の仕事>は、目的のある重要な活動、そして人びとが自分自身で組織しコントロールする活動を意味する。それは、有給かもしれないし無給かもしれない。それは、人びとが個々人として、また世帯メンバーとしておこなう活動である。それは、いっしょに働く人びとのグループによっておこなわれる活動である。それはまた、特定の地域に住んで、ローカルな必要にあわせてローカルに働く人びとによっておこなわれる活動である。個人と世帯にとっては、自身の仕事は、自己雇用(セルフ-エンプロイメント)(=自営とほとんど同義だが、自営は従業員を雇って雇用者を兼ねる場合も多いので、それと区別するために自己雇用と訳す)、世帯と家族に必要不可欠な活動、ドゥ・イット・ユアセルフとか自分自身の食料の一部を育てるとかいった生産的な余暇活動、そしてヴォランタリーな仕事(★ボランティア)への参加を意味するだろう。グループにとっては、自身の仕事は、たぶんコミュニティ事業体か協同組合で、あるいはそのほか個人的な関心があって個人として重要だと思う、社会的、経済的、環境的、科学的などなどの目的のあるさまざまの活動で、パートナーとして一緒に働くことを意味するだろう。地域にとっては、自身の仕事の重要性は、それが、ローカルな自己依存と、ローカルな仕事によってローカルな必要をみたすローカルな能力の増大と、外部の雇用者や供給者への依存の減少に貢献することにある。『未来の仕事』P3

この<自身の仕事>は地方創生にも貢献する。BI はその基盤となる政策になり得る。

まとめ

以上、粗々でベーシックインカムと、感情、性、雇用について記述してきた。私はアカデミックな研究者ではないので、自分の現状の理解で自由に記載している。間違いもあるだろう。その時は改める。そもそも最近は、Twitter に比べるとブログにはリアクションは少ない。みんなまとまった文章を読まなくなっているんだよなあ。
もう一点、思い付きを付け加えると、BI はあくまで政策として議論したい。これが政治活動になってしまうと無駄な対立を生んでしまう気がする。

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隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

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*1:この定義は、私の個人的な理解によるものなので、注意。