山口裕之『「大学改革」という病』〜大学関係者の必読書

これは勉強になる本だった。
事務職員が弱そうな大学の歴史も、教員が弱そうな予算の仕組みも、両方丁寧に記述されていて、これ一冊読めば大学改革の現状が押さえられると思った。
また、大学改革にとどまらない広い視野で日本社会の問題点が指摘されている。
大学の問題は、社会システム全体とつながっているのである。
大学だけ改革してもうまくいかない。
そうした意欲的な本だった。
ところが、著者の専門はフランス近代哲学なのだ。
自分の専門ではない分野で、これだけのことを調べて、専門的だが読みやすい一冊の本に仕上げているのは驚きだ。
どちらかと言うと、何でも自分の専門分野に引き寄せて考えてしまう教員が多いだろうに。
いちいち説得力もある。
大学に批判的な財務省の幹部や冨山和彦さんや大手人材派遣会社パソナ会長の竹中平蔵さんなどは、本書を読まれただろうか。
ある程度の地位を得られた人は、自分とは相容れない考えをインプットしなくなる傾向があるのではないか。
財務省の幹部や冨山和彦さんや竹中平蔵さんの言葉はいつも上からで、自分の考えが変わるような可能性を一分も見せない。
だから対話にならないのだ。
そういう人が、本書を読んでいるとは思えない。
もし読んでいるとしたら、相手として手強いと思う。

本書は、参考文献リストも充実しているので、気になるところは原典に当たればいい。
反論があれば、一次資料に当たればいいのである。
必読書として、注でおすすめされていた井手英策『日本財政 転換の指針』と佐藤滋・古市将人『租税抵抗の財政学 信頼と合意に基づく社会へ』は、ぜひ読んでみたいと思った。
本書にとどまらず、好奇心が広がっていく本は良い本である。

著者が主張する合意形成のプロセスは、竹中さんなどが大学に欠けていると主張する「マネジメント」とは、おそらく別物である。

信頼関係にもとづく協力体制だけが、物事を真に改善するのである。

その意味で大学にいわゆるマネジメントは必要ないのではないか。
大学に対して、無批判に企業的な経営原理を持ち込もうとするから、おかしくなっているのではないか。
そういうことを考えている。
しかし、財務省官僚や冨山さんや竹中さんは、抜群に頭が良くて、各方面に対する影響力が大きい。
その巨人たちに対抗していくには、むちゃくちゃ勉強して理論武装しないといけないんだろうと途方に暮れる。
大学の自由を獲得するには、力が必要なのだろう。
その力をつける契機となる一冊だと思った。
大学関係者必読書としておすすめ。