幸田露伴『五重塔』を丁寧に脱線しつつ読む①

幸田露伴五重塔』を読み始めた。
青空文庫があり、Kindle版も0円で読むことができる。
しかし!この日本語は、もはや普通には読めない。
今回は、そこを読み飛ばさずに、一語一語、おさえながら読んでみるとどうなるか、というスローリーディングの試みをやってみる。
たとえば最初の段落は、30前後の女性の描写だとわかるが、細かい言葉がさっぱりわからない。
そこで一言ずつGoogle先生に聞きながら読むことになる。

其一

最初は「槻胴」けやきどう。
ケヤキ欅坂46のけやきと同じ、ニレ科ケヤキ属の落葉高木のようだ。
そして胴はその後の長火鉢を修飾しているので、その火鉢が欅でできているということのようだ。
その火鉢は縁は赤樫でできている。
樫は厳密にはオークと違う。
オークはなら。
オークと言えばマインクラフトで最も基本的な樹なのでなじみがある。
岩畳作りはよくわからず、長火鉢を調べると、イメージと違った!
勝手に丸い火鉢(朝ドラ『スカーレット』に出てきた絵付火鉢)を思い浮かべていたら、長火鉢は長方形のものだった。
Google画像検索にはお世話になりそうだ。
そんな調子で女性の描写も長々と続く。
とりあえず美人だとわかった。

「黒文字を舌端で嬲り躍らせなどしていし女」って何?
黒文字をGoogle先生に聞いてみると、クスノキ科の落葉低木で枝を高級楊枝の材料として使うことがわかった。
そこから、楊枝のことを「黒文字」というらしい。
つまり、女が舌先で舐めているのは爪楊枝だとわかった。

そんなこんなで丁寧に読んでいくと、冒頭の女性は源太の妻らしいとわかった。
源太は大工の棟梁である。
どうやら夫の仕事のことを案じて手持ち無沙汰でいるらしい。
そして、源太の妻に姉御と言いながら、お金の無心をしてきたお前は誰だ?
名前は出てきた清吉か?
そこで其一が終わる。

其二

清吉メイン。
昨夜酔っ払って、寝過ごしたのかな?
それを源太の妻にやさしくたしなめられて恐縮している清吉。
その清吉の話として、のっそり十兵衛が登場。
なるほど。
ちなみに、『水戸黄門』のうっかり八兵衛は、のっそり十兵衛から来ている?
それを調べていたら、ガッツ石松さんがのっそり十兵衛を演じている映画『五重塔』があるとわかった。
、、、見たくないです。

其三

今度はのっそりの妻らしい。
だんだん言葉に慣れてくる。
すると意味を調べなくても、なかなか読める。
意味がわかる。
それが心地よい。
言葉にリズムがあるからだ。
親方の妻の名前は、お吉とわかった。
また、スマホKindleアプリで読むと、わからない言葉は長押しでそのままウェブ検索できるのが、こんなにも便利だと気がついた。
のっそりの妻は、夫がその性格から、仕事で出世できないことを気にやんでいた。
なんだかドラマ『白い巨塔』の里見の妻を思い出した。

登尾豊「「五重塔」論ーー暴風雨の意味ーー」

さて、並行して登尾豊『幸田露伴論考』に収録されている「「五重塔」論ーー暴風雨の意味ーー」を読んでいく。
本論で、幸田露伴は「不当にも過小に評価されてきた」と書かれる。
それは日本の近代文化史が西洋文学を基準としてきたからだ。
露伴の代表作に挙げられる「五重塔」については「十兵衛の天才と意志の力を描いた作品とする見方」が強い。
しかし、私が読み始めて気がついたのは、最初に其一で丁寧に描写されるのは源太の妻であるお吉なのだ。
その点が私は気になっている。
まだ其三までしか読んでおらず、のっそり十兵衛は語られ始めたばかりだ。
其一で源太の妻が描かれ、其二で清吉を挟んで、其三でのっそりの妻というのがおもしろい。
意識的な構成のように感じられる。
果たしてのっそりだけに注目していいのだろうか。

放火心中事件

この小説のモデルとなった五重塔露伴がその近所に済んでいた谷中天王寺にあったものだが、心中放火事件で焼失してしまったらしい。
昭和32年、戦後のことだ。
NHKアーカイブスで実際に燃えている五重塔の映像を見た。
ノートルダム大聖堂の火災を思い出す。
それにしても、なぜ心中するのに五重塔を燃やす必要があるのか、その思考がわからない。
今は五重塔の跡だけ残っているらしい。
Googleマップの行きたい場所フラグを立てた。
東京出張に行った時に立ち寄るかもしれない。
今の読書は、NHKアーカイブにしてもスマホを活用すれば色んなことがわかる。
その小説世界に厚みが出てくる。
そういったインターネット時代の読書法があるだろう。
近代文学研究がそこまで進んでいるかどうかは知らない。
はっきり、今までのような研究方法では作家一人ですら網羅できないだろう。
Twitterなんかやっている作家は、作品だけじゃなく、膨大な言葉の量が残ってしまう。
それらを一人で読みこなすのは不可能ではないか。
AIを活用するとか、チームを組むとか、考えないといけない。
詩人の松本圭二さんは、この膨大なウェブ上の言葉に対抗する詩を書こうとしたのではなかったか。

其四

谷中感応寺について語られる。
そして、朗円上人。
五重塔を発注した人。
注目したのは、上人の言葉らしき「なお少し堂の広くもあれかしなんど独語かれしが根となりて」だ。
これは現代語訳すると、「もう少し堂が広かったら(増えた弟子たちのためにも)いいのになあ」と独り言を言ったのがきっかけとなって、という感じか。
要するに、偉い人の独り言を周囲が忖度して話が大事になって、寺の創建が進んだということらしい。
そういうのってよくあるよね。
偉い人は、本当に発言に意識的に気をつけてもらわないと困る。
上人の一言で、周囲があれこれ動いて、たくさんの寄付が集まってしまった。
結果、予算が余り、また上人が「塔を建てよとただ一言」と言ったことから五重塔の建設が始まる。
それが様々な人々の心を動かす。
円道という上人の元で役を持っている僧は、源太に見積書を出してくれと依頼するが、そこにのっそり十兵衛が上人へ会いに来て終わる。

終わらない

以上、作品を読みながら色々調べたり、脱線したりしていると読書そのものはなかなか進まないことがわかった。
しかも、そのプロセスをこうやってブログにもしているのでますます読書が進まない。
この調子だと、なかなか読み終わらないのでとりあえずこの辺りで一回投稿する。

五重塔

五重塔

幸田露伴論考 (学術叢書)

幸田露伴論考 (学術叢書)

  • 作者:登尾 豊
  • 出版社/メーカー: 学術出版会
  • 発売日: 2006/10/01
  • メディア: 単行本