ニーチェの『この人を見よ』は読む度に発見がある。
本書一冊でメシ5杯ぐらい食える。
今回、動かない仕事があったので、この文庫本を選んだ。
美術館の監視役のような仕事だ。
本を読める。
おもしろい。
ニーチェは44歳の誕生日前後に本書を書いている。
自分は43歳だ。
気が狂わないように注意しないと。
「片足だけは生の彼岸に置いている」という表現は、非人情(夏目漱石『草枕』)に通じるものを感じる。
あるいは「病者の光学」か。
病気だからこそ見えるものがある。
半分死んでいるからわかることがある。
「沈黙している手合いは、ほとんどいつも心情の細やかさと礼節を欠いているのだ」という言葉は、いつも仕事で感じることだ。
沈黙する人間が一番嫌いだ。
うんざりする。
それでいて、面従腹背だか、抵抗するのだ。
言葉にして、バチバチやりあおうよ。
そして、今回、「何かある事柄で失敗した場合に、失敗したからこそそれだけますますその事柄を尊重する」という言葉を発見して、失敗から学ぶ感覚がニーチェにあったことに驚いた。
失敗学だ。
病者の光学も含めて、ニーチェにはネガティブな状況を強引に転換するような力を感じる。
ルサンチマンに対抗するための「ロシア的宿命主義」なども改めて役に立つ。
「冬眠への意志」とも書かれているが、自分はいつもナポレオンに攻め込まれたロシアを思い出す。
反応しない、という戦い方。
体力とエネルギーを節約すること。
これは生理学だ。
──さらに、出来るだけ腰を掛けないようにすること。戸外で、自由な運動の最中に生まれたのではないような思想──筋肉もまた共に加わって祭典を祝っていないような思想は、信用しないことなのだ。すべての偏見は内蔵から来る。p45
幸いなことに、自分は自分の席にじっと座っていられない。周りの音に耐えられないのだ。だから、しょっちゅう席を立つことになる。否応なしに歩くことになるのだ。そして、歩いている時に色々なことを思いつく。仕事を前に進めるためには歩きながら仕事するのがいいと思っている。
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